地理の扉 地理資料集
農業の工業化に伴い大規模な投資が必要になると、アグリビジネス(食料供給体系(フードシステム)を統括し、農作物の生産、加工、貯蔵、流通(輸送・販売)までを支配する農業関連産業の総称)に代表される企業的農業が発達した。
資本集約的な企業的農業は農薬や化学肥料を大量投下するため、従業者や消費者の健康被害や土壌汚染、地下水や排水の水質悪化などの悪影響を及ぼしやすい。また、大規模な農場で行われる単一栽培(モノカルチャー)は土壌を劣化させるだけでなく従来存在していた生物多様性を低下させる。さらに、遺伝子組み換えやそれに伴う農薬散布の促進は生態系バランスを崩壊させかねない。
この項では比較的細かい内容を記載する。概要は風土記[→風土記]などを参照されたい。
日本のジャンボピーマンの輸入元第1位は韓国。主産地はスペインなどだがチチュウカイミバエという害虫が蔓延しているため、ヨーロッパ圏からの輸入は特例で認められている分のオランダ産を除き植物防疫法で排除されている。また、日本へはスイカの輸出も多い。生産量自体は中国が世界の6から7割を占めているが、自国消費が多いため日本の輸入量上位は韓国、アメリカ合衆国、メキシコである。かつてはトマトの生産も盛んだったが、韓国の自国消費が伸長したので現在はそこまで目立った量ではない。
沖積平野は低湿なため稲作が行われ、(洪積)台地は水捌けが良好なため畑作が行われる。現代に限らず、産業構造的に農業従事者自体が少ないため、絶対数が大きくなりづらい。
野菜の自給率は1960年代にはほとんど100%だったが、外食・中食産業の発達や輸送技術の進歩で中国やアメリカ合衆国などからの輸入が増加し現在は80%程度に低下している。しかし、これは食の多様化ととることもでき、特段不健全な値とも言えない。一方で大豆(1961年輸入自由化)は自給率が20%ほどで、特に油脂用大豆はほとんど全てを輸入に頼っている。1991年にはオレンジ・牛肉の輸入自由化が行われた。
戦時中の食糧管理制度と戦後の増産、食の洋風化による消費減により1960年代から食用のコメの生産過剰に陥っていたことから1969年に減反政策が開始され、1971年に本格化し単純休耕に助成金が出された。1983年には国内自給率の低い作物への転作が奨励されるようになったが、1991年にはピナトゥボ火山の噴火やエルニーニョ現象やませの発生、梅雨明けの遅れにより国内は記録的な凶作となりタイからコメの緊急輸入が行われた。1993年のウルグアイ・ラウンド[→ウルグアイ・ラウンド]で日本は米などのミニマムアクセスを認め、1995年から実際に米の最低輸入量が設定され、1999年に米の輸入自由化が行われた。2018年、TPP11の発効という背景や補助金削除の観点から減反政策が廃止された。
谷地に造られた湿田のことであり、中世以前の日本では 圃場整備が進まない沖積平野部に比べて用水が容易で比較的安定した収量が見込める田んぼだったとも考えられている。谷地は東北日本や北海道で見られる言葉で、低湿地(寒冷地では泥炭地になりうる)を意味する。谷地と呼ばれる沢や湿原は一般に地下水面が高く、排水が悪い場合が多い。(→水土の礎 - 一般社団法人農業農村整備情報総合センター)
【参考】ピナトゥボ火山噴火の影響
・噴煙による大気中のエアロゾル増加で太陽放射が遮断された。
・記録的な冷夏
・そもそも日照不足
→在庫米の放出では不十分
→アメリカ合衆国、オーストリア、タイからの緊急輸入
(余談だが、このときジャポニカ米とは性質の違うタイ米をジャポニカ米と同じように調理することで「タイ米はまずい」というステレオタイプが生まれたとか)
【参考】米の輸入自由化
輸入自由化された、ということは関税なしに好きなだけ輸入されるようになったということではなく、「関税を支払えば好きなだけ輸入できるようになった」という意である。日本は国際的な孤立化を回避するため1998年に関税化を決定し、1999年より施行された。ただし、かなり高率の保護関税が設定されており、増加率はミニマム・アクセス時代よりも低調である。
事実上無尽蔵とも言える大気中の窒素を化学肥料に変えるハーバーボッシュ法は20世紀最大の発明とも言われ、現在の大量に肥料を投下する農業形態を可能にした。三大栄養素の窒素、リン酸、カリ(カリウム)はそれぞれ葉や茎の生育、結花や結実、生理発性や根の生育に関与するが、そのうち窒素だけが化学的手法で大量生産することができる。
高収量品種には化成肥料が不可欠だが、適切に利用しないと土壌の微生物を減少させるなど土壌劣化の原因となってしまう。なお、化学肥料の最大の消費国は圧倒的に中国であるが、オアシス農業が盛んな地域などでも消費量が多い。
大気中のN2はアンモニア(NH3)に変えられ耕地に投入される。そのうちの半分程度が植物の成長に寄与するが、残りの約半数は地下水や河川水として流出してしまううえ、一定量はN2Oとして大気中に放出され地球温暖化やオゾン層破壊の一因となる。
また、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素を含む水は乳幼児の酸素欠乏症や閉鎖海域(水域)の富栄養化や水質汚濁、それらに伴う赤潮などの発生を助長している。対策としては4R施肥推進運動が行われており、適切な手段で、適切な時期に、適切な分量で、適切な場所に施肥を行うことが推進されている(英文:Right fertilizer source, Right time, Right rate, Right place)。
米、小麦、とうもろこし、大豆、大麦、ライ麦、えん麦、もろこし等雑穀
キャッサバ、タロいも、ヤムいも、さつまいも、じゃがいも(てんさいはカブ)
さとうきび、コーヒー豆、茶、カカオ豆、天然ゴム、アブラヤシ、ココヤン、ナツメヤシ、綿花、ジュート、ひまわり、アブラナ
バナナ、オレンジ類、オリーブ、ブドウ
えん麦…燕麦(オート麦)、さつまいも…甘薯、じゃがいも…馬鈴薯、ジュート…黄麻、
さとうきび…甘蔗、ナツメヤン…デーツ、てんさい…ビート(砂糖大根)
イネ科の一年生作物。世界で広く栽培されるサティバ種とアフリカの一部でのみ栽培されるグラベリマ種に分けられ、インディカ(インド型)・ジャポニカ(日本型)・ジャワ型はサティバ種の変種である。また、陸稲と水稲の区別もある。熱帯から御大にかけて栽培され、人口保持力が高い。高温多雨のモンスーンアジアでは小麦の栽培に適さないこともあり、主食である。
基本的に自給的。永らくタイが輸出の首位だったがインドが輸出を活性化させたため、現在はインドが首位。アジアが生産と消費の中心。
イネ科の一年生・二年生作物。西アジア原産で、日本にもイネと前後して到来した。世界で広く主食として栽培されるが、基本的に冷涼乾燥を好む。秋蒔きの冬小麦が一般的だが、寒冷地向けの春蒔きの春小麦が栽培される。人口大国では生産が多くなる。国際取引が盛んだが、フランスはEU域内向け。
イネ科の一年生作物。中南米原産で、サトウキビと並ぶ代表的なC4植物であり光合成の効率が高く、高温・乾燥にも耐える。アメリカやメキシコで盛んに生産される。飼料や燃料(バイオエタノール)用としての栽培が多いが、メキシコでは食用での生産も盛ん。アメリカではバイオ燃料の他、大豆の裏作としても生産される。
ブラジルなど南米では中国向けの輸出目的で生産が急拡大し、首位もブラジルがアメリカ合衆国に取って代わった。輸入の6割は中国。
乾燥地で生産が拡大しているが、あいかわらず国土にBやAwなどの気候区を抱える大国で生産が盛ん。中国は別として、先述のうち先進国で輸出が盛んで、国内に衣類工場の多い発展述上国で輸入が盛ん。
ブラジル、インドで多い。中国が5位であることに注目。インドでは神聖視され肉は食されないが乳製品や燃料の供給元として重用される。しかし、インドでは水牛は牛判定ではないそうで、こちらは屠殺されおもに輸出用途に供される。国内ではベジタリアンが多いので牛肉でなくともそもそも肉の消費量が伸びにくい。水牛と牛が混ぜられた統計を出されるとインドが牛肉の輸出大国になるので鬱陶しい。
半数近くが中国で飼育されている。イスラーム圏では不浄とされるため食はおろか飼育すらされない。輸出は欧米が中心。
粗食に耐える。北アメリカ大陸では少ない。ヨーロッパではイギリスが最多。食肉、羊毛、乳製品用など多用途。
アメリカ合衆国資本が独占的に生産を支配していた状態を指してバナナ帝国という言葉がかつてあったように、中央アメリカでのプランテーション栽培が盛んで、輸出の首位はエクアドル、次いでグアテマラ。3位はフィリピンだが続いてコロンビア、コスタリカ。一方、バナナは主食として優秀なため自給目的でも生産され、生産量自体は首位から順にインド、中国、インドネシア、ナイジェリア。
アルプスでは牛、南欧などの感想地域では羊や山羊、ヒマラヤ山脈では羊や山羊に加えヤクが対象とされる。西岸海洋性気候中心のアルプスでは夏は広い斜面を利用して放牧し、冬は麓で夏の間に作った飼料で育てる。地中海性気候の地域では夏に乾燥し低地の牧草が不足するため、乾燥がまだマシな山地へ移して育てる。
ヤクはヒマラヤ地域のネパールでは移牧の対象だが、チベット高原では遊牧の対象とされる。
三圃式農業は中世のヨーロッパで広く行われていた農業で、3分割した耕地を冬耕地・夏耕地・休閑地として輪作する。冬作物には小麦やライ麦が、夏作物には大麦やえん麦が栽培され、休閑地では排泄物を利用して地力を回復することを企図し家畜が放牧された。
近世では休閑地でカブ(根菜類)や牧草が栽培されるようになり、家畜は畜舎で舎飼いして栽培した根菜類や牧草を与える改良三圃式農業に発展した。さらに土地生産性を向上させたのが現代の混合農業となる。
肉の消費量
近代化で肉の消費量は増えるのが一般的だが、経済成長でかえって減少する場合がある。これは欧州などで見られることで、三圃制農業依頼の有畜農業で肉食が盛んだったところに、食の多様化や健康志向・環境志向の高まりで肉の消費量が減少したからである。
日本の「プラム」や「アプリコット」と英語では呼ばれる。梅の地図記号は果樹園で、和歌山県の日高郡みなべ町(旧「南部」)や田辺市で生産が盛ん。1980年代から1990年代にかけて健康や自然食ブームの結果梅干しの需要が高まり、国産の6割を占める和歌山県での生産は3倍にまで拡大した。この際、山を切り開いて果樹園としている。平成27年に「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に登録された。
ラトソルは肥沃度が低いため、熱帯地域では焼畑耕作が行われる。しかし、ラトソルは直射日光を浴びると硬化してしまう。また、「定住化」と聞くと遊牧民の都市への定住化や狩猟採集民の農耕による定住課が思い浮かぶかもしれないが、焼畑農地の固定化も定住化の一種である。
いも類が中心で、世界的にはキャッサバが相当に生産量が多く(古めの統計では圧倒的だった)、ついでヤムいも、かなり差があってタロいもの順で生産されている。なお、ナガイモやヤマイモはヤムいも系で、サトイモがタロいも系である。
どの熱帯性いも類もナイジェリアが生産量一位(ナイジェリアは2023年の推計で人口約2億2000万人)で、ナイジェリアは世界的な割合に比べヤムいもの割合が高い。キャッサバはアフリカや東南アジアで生産が盛んで、ヤムいもはアフリカで多い。タロいもは絶対値として目立つわけではないがランキングに中国が該当していることで判別できる。
なお、アジアに比べてアフリカは農業生産性が低く、流通・保管技術も未発達なため、食料価格がアジアの倍程もあることに留意されたい。
気候変動や人口圧の増大でアフリカでも旱魃が深刻な問題を生じている。特に、サヘルなど半乾燥地域では旱魃は砂漠化の進行と密接に関係している。過放牧や過交錯、過剰な伐採なども砂漠化の進行を助長している。砂漠化が進むとその地域では飲用水が不足し耕作可能地が減少し、環境難民を生じる恐れがある。実際、サヘル地域の住民が南方の熱帯地域であるギニア湾岸や雇用のある大都市や首都に流出している。
旧植民地時代、本国にとって最優先なのは植民地の人々の食糧生産よりもプランテーション作物の生産であるため、国土の肥沃なところを占拠しがちである。ガーナやコートジボワールでは植民地時代以来のプランテーションを国有化や現地資本化し小作農化を進めているが依然として降水量の多い土地を占拠し続けている。
ラテンアメリカにおけるアシエンダ制は植民地時代以来の大農園制である。アシエンダはスペイン語で、ポルトガル語ではファゼンダと呼ばれる。王の代官的立場だったエンコミエンダ制とたち変わって拡大した形態であるが、エンコミエンダが社会制度であるのに対しアシエンダは私的財産で経営体であるとされ、農場主は領主的性格をもち農民をおもにプランテーションの分益小作人として使役する。ラテンアメリカ諸国の宗主国からの独立後も残存し、その保守的な態度から農業を停滞させ近代化を阻害するものとして度々槍玉に挙げられてきた。
【参考】中南米の大土地所有制(ラティフンディオ)
ブラジルはファゼンダ、アルゼンチンはエスタンシア、アンデス諸国はアシエンダ
原産地はエチオピア、もしくはアラビア半島。オランダが採った強制栽培制度などのもとで18世紀から19世紀に植民地でのプランテーション品目として導入された。生産量の75%〜80%を占めるのがアラビカ種で、主にレギュラーコーヒーに用いられる。味に優れるが生育には日陰樹が必要で、加工も水洗式という手間のかかる手法が用いられる。一方生産の20%ほどを占めるのがロブスタ種で、インスタントコーヒーや缶コーヒーに用いられアラビカ種のかさ増しに用いられることもある。生育に日陰樹は不要で、乾式で加工することができる。その他、リベリカ種や交雑種なども存在する。
ベトナムでは1986年に開始されたドイモイ(刷新)政策による市場経済の導入で人口希薄で肥沃地だった中部高原に農民が移動しコーヒー栽培(ロブスタ種中心)が行われるようになった。1995年のブラジル産コーヒーの不作で世界の注目を受け、多国籍企業が進出して現地で工場建設や栽培契約などが進められた。
元々は豚などで発生していた価格の乱高下を説明する理論。生産に時間がかかるため需要の変動に急速に応えられない商品(一次産品に多い)は速やかな生産調整が行われないと価格の暴落や急騰が発生してしまう。
アマゾン盆地原産の植物だが、イギリス人に持ち出されマレー半島周辺でも栽培されるようになった。1900年代にはイギリス支配下のマレー半島でプランテーション栽培が行われ、モータリゼーションの進展とともにタイヤの原料として生産を拡大した。ところが1926年にドイツで合成ゴムがつくられて以降天然ゴムの代替になりうる合成ゴムが登場し、1960年代には老木が増加したこともあって生産が縮小するかと思われた。しかし、1990年代以降は自動車の大型化に伴い天然ゴムの需要が再燃し、21世紀に入ってからは天然ゴム4割、合成ゴム6割の割合で安定して増加している。
なお、当初ブラジルはゴム生産の独占を守るためゴムノキ(パラゴムノキ)の苗や種子を持ち出すことを禁じていたが、イギリス人が持ち出した。
ナツメヤシ、棗椰子とも。果実を干したものはデーツと呼ばれ、食用とされる。生食やジャムの原料、精糖・酒造にも用いられる。国内でも小洒落た雑貨店などで購入することができる。世界全体の生産量は1000万トンに少し足りないほど(2022年)で、カカオ豆よりは多くパイナップルよりは少ない。インド西部〜メソポタミア地方が原産のヤシ科の常緑樹で、高温や乾燥に強いため北アフリカや中東地域を中心に栽培されている。
【資料】なつめやしの生産量(2022年)※4位までで世界計の半数を超える
1位:エジプト
2位:サウジアラビア
3位:アルジェリア
4位:イラン
5位:パキスタン