地理の扉 地理資料集
人間の生活にエネルギーは不可欠であり、工業化はさらなるエネルギー需要の拡大を促した。人間が用いるエネルギーは初期は人力や家畜、薪炭材、水力や風力が中心だったが次第に石炭や電力中心に移り変わった。このような動力の変遷をエネルギー革命(動力革命)とよび、特に1960年代における石炭から石油・天然ガスへの転換を指すことが多い。
国ごとのエネルギー消費量は、国土が広い国や経済的に発展している国で多くなりやすい。中国やアメリカ合衆国、インド、ロシア、日本などが挙げられる。一人あたりの消費量は先進国で多くなりやすく、輸送に手間がかかる人口希薄地や暖房などの需要が多い寒冷地などでも多くなる。ただし、サービス産業化が進むと重工業が海外移転する傾向にあり、消費エネルギーは減少する傾向にある。
自然界に存在し、人間が採取したままのエネルギーを一次エネルギーとよび、一次エネルギーを利用して生産されたエネルギーを二次エネルギーとよぶ。
一次エネルギーは大まかに化石エネルギー、自然エネルギー、バイオマスエネルギー、核エネルギーに分けられる。二次エネルギーの例としては電力や木材加工品である木炭、石炭加工品であるコークス、石油加工品のガソリン、天然ガスを液化したLNG(液化天然ガス)などが挙げられる。
化石エネルギー(化石燃料)は石炭や石油、天然ガスなどを含み、自然エネルギーはいわゆる「再生可能エネルギー」と呼ばれるものが多い。バイオマスエネルギーは生物エネルギーとも呼ばれ、ひろく生物に由来する動力を含意する。核エネルギーは原子力を利用したエネルギーで、核反応を用いるものが主流だが核融合技術の開発が各国で進んでいる。
古い時代の海棲生物の遺骸が地圧と地熱の影響をうけて分解され、炭化水素を中心とする可燃性の液体になったもの。採掘されたまま天然のものを原油という。世界のエネルギー総消費量の3分の1を占める最大のエネルギー源である。褶曲した岩盤の峰部分である背斜部に多く貯留されている。
石油は分留されることでナフサや蒸留ガス、灯油・軽油・重油などに分けられる。
メジャー(オイル・メジャー、国際石油資本)は巨大な資本力と高い技術力で世界の石油流通を寡占的に支配していた先進国資本の国際的な石油会社である。1960年代ごろから高揚した資源ナショナリズムの風潮のもとで進出先各国が石油の国有化を進めたため、その地位は低下したが、現在も世界各地の油田開発や販売を主導する存在である。1980年代以降急速に再編が進み、現在はアメリカ系のエクソンモービル、同シェブロン、オランダ・イギリス系のロイヤル・ダッチ・シェル、イギリス系のBP、フランス系のトタルなどが残っている。
資源保有国が自国資源を自国で管理し経済発展に繋げようとする運動である資源ナショナリズムの高まりをうけ、油田を国有化する試みが広がる一方、産油国による価格カルテル機構も設立された。OPEC(石油輸出国機構)、OAPEC(アラブ石油輸出国機構)がその例であり、中東を中心に連帯した。
1960年代以降、世界のエネルギー消費の中心は石炭から石油に移行した。先進国を中心に石炭が枯渇し始める一方、油田探査が進み供給量が増大した石油は熱効率が良く、液体で取り扱いが容易であることから広く普及した。また、石油は自動車などの内燃機関にも用いられ、石油化学工業の原材料となるなど用途も幅広かった。1960年代という時代は、日本でモータリゼーションが進んだ時代とも重なる。
しかし、1973年(第四次中東戦争)と1978年(イラン革命)の二度にわたるオイルショック(石油危機)で石油価格が急騰すると、中東への石油依存が大きかった世界経済は打撃をうけ、脱石油化が進んだ。オイルショックは、中東の産油国(OPEC諸国)が欧米を牽制する目的で石油の減産を行ったことで発生したものである。
日本では高度経済成長がオイルショックで終焉を迎えた。一方、サンシャイン計画により新エネルギーや代替エネルギーの開発が進んだほか、省エネ意識の高まりなども見られ、国際的にも同様の潮流がみられた。また、OECD諸国は国際エネルギー機関(IEA)を設立し石油の安定供給や代替エネルギーや省エネ技術の開発、産油国と輸入国との関係強化による対応を試みた。
1980年代以降は不況による石油需要が減少する一方、1960年代から探査は進められていた北海油田が本格的に稼働し、メキシコなどのOPEC非加盟国が増産の動きを見せたため供給過剰となり、OPEC諸国が原油価格値下げを余儀なくされる逆オイルショックと呼ばれる現象がみられた。これは、OPECの価格形成力の低下も意味している。
産油国は石油輸出で得た資本(オイルマネー)を国内に投下して経済発展を進め、石油依存型の経済からの脱却を試みる一方、化石資源を算出しない発展途上国との格差が拡大し、南南問題として問題視される。
2000年代になると、アメリカ合衆国で技術革新が生じ、頁岩層に存在するシェールガス(天然ガス)・シェールオイル(石油)の取り出し技術が実用化された。膨大な量の天然ガス・石油採掘が米国では可能となり、2011年には米国は石油製品の純輸出国に転じた。可採年数は倍増したといわれる一方、岩盤の水平掘削と薬液の高圧注入を必要とするこの技術は地下水の汚染などによる環境問題といった課題を生じさせた。
また、近い性質でカナダ(アルバータ州)やベネズエラに多く分布するものをオイルサンド層(油砂・タールサンド)とよぶ。
一次エネルギーの消費構成比においては、熱量あたりの輸送コストが石炭と比べると比較的低いため、日本などのほとんどエネルギー資源を産しない国で割合が高くなりやすく、むろん産油国でも高い。
生産量はアメリカ合衆国やサウジアラビア、ロシアで多いが米国は多くを自国で消費するためサウジアラビア・ロシアが輸出の中心である。輸入は超経済大国で世界随一の資源輸入国である中国を筆頭に、アメリカ合衆国、インド、韓国、日本などが挙げられる。
西アジアに世界の埋蔵量の半数が存在するとされ、生産の3割程度も西アジア諸国である。
【参考】発電用途以外の自然エネルギー
風力:風車を用いて製粉や揚水・排水などに用いられた。オランダの干拓地(ポルダー)に見られる風車はもとは干拓用。
水力:水車を用いて製粉や精米などに用いられた。アパラチア山脈東斜面に列状に分布する滝線都市は、水力を用いた繊維業・製粉業の発達と河川交通の終着点という立地を活かして発展した。フィラデルフィアもその好例であるが、ここで重要なのはフィラデルフィアが建設されたのは17世紀半ばで、電気が普及し始めるのが19世紀半ばであることから、ここでいう「水力」は決して「水力発電」ではないということである。産業革命期には水力を用いた紡績機も発明された。
地熱:熱源として活用され、農業や室内暖房、入浴施設などに用いられる。
太陽熱:一般家庭レベルで「ソーラークッカー」などによる太陽熱を利用した調理器具が用いられることがある。
再生可能エネルギー
【参考】世界の地熱発電の設備容量(導入量)ランキング 2019年
アメリカ合衆国、インドネシア、フィリピン、トルコ、ニュージーランド、メキシコ、イタリア、日本
米国ではカリフォルニア州に集中しており、新期造山帯で火山活動が活発な地域に多く見られる。活火山が多い国で盛んだが、その数と比例しているわけではない。
【参考】世界の風力発電の設備容量(導入量)ランキング 2019年
中国、アメリカ合衆国、ドイツ、インド、スペイン、イギリス、フランス、カナダ、ブラジル、日本
中国が次点の米国の2倍以上の発電容量を誇り、世界の風力発電量の三分の一強を占める。
サトウキビやとうもろこしを発酵・蒸留して生産されたエタノールで、植物が原材料であることから再生可能でカーボンニュートラルなエネルギー源として注目されている。サトウキビを中心とするブラジルとトウモロコシを中心とするアメリカ合衆国で生産される分で世界のバイオエタノール生産量の7割を占めている。
米国では1970年代後半から余剰農作物問題への対応策として生産が本格化し、バイオエタノールを混合したガソリンへの税制上の優遇策や小規模生産者への所得税控除などの促進策が採られた。しかし、2007年には生産量が急増したためにトウモロコシ価格が暴騰し、エネルギー自立安全保障法制定の契機となった。
ラプラタ川支流のパラナ川に建設されたダムで、ブラジルとパラグアイの国境に位置する。土木的には世界最大の中空重力式コンクリートダムだが、複数の方式を組み合わせて建築されたコンバインダムである。発電量は1260万kwと中国の三峡ダムが発電機を全機稼働させるまでは世界一の発電量を誇る水力発電所だった。この値は日本最強の揚水発電所である奥多良木発電所でも193万kw(揚水発電所は通常の水力発電所より出力は大きくなりやすい)、ダム式最強の奥只見発電所でも56万kw、東京電力が誇る柏崎刈羽原子力発電所で7機合計821万kw(1機は110万kwもしくは135.6万kw)であることを考えるといかに大きな値かわかる。
水素自体は燃焼しても二酸化炭素にならないため、環境への負荷が小さいとされているが、水素を製造するまでの二酸化炭素の排出具合によって分類がある。ひとつ目が「グレー」で、化石燃料から生産され、その製造過程で二酸化炭素を排出している水素である。ふたつ目が「グリーン」で、化石燃料から生産されるがその過程で排出される二酸化炭素は回収されている水素である。最後が「グリーン」で、生産時点から再生可能エネルギーを用いた持続可能な水素である。オーストラリアではまず未使用の褐炭や石炭を利用して「ブルー」を生産して水素エネルギーの普及に努め、ゆくゆくは「グリーン」へ移行することを計画している。
熱や電力などを用いる効率的なエネルギー利用の方式としてコジェネレーションがあるが、現在はそれを超えて二酸化炭素などまで利用するトリジェネレーションも存在する。